2026.07.21

Claude Scienceを使って生命科学研究をやってみた〜シングルセル解析入門から最新研究まで、その実力と限界〜

TL;DR

  • Claude Scienceは、Anthropicが発表した科学研究用のAIワークベンチです。多数のSkillやデータベースと連携し、文献調査から解析・図表・レポート作成までを自動化してくれます。いわば、Coworkの研究者向けバージョンといえるものです。
  • 環境構築が容易で、シングルセルRNA-seq解析のような専門的なワークフローも数分〜1時間程度で一通り完走してくれます。定型作業の効率化や、専門外の人が最新の解析に触れる入り口として有用です。
  • 一方で、データの品質管理や細胞種の同定、分析の深さなど、言語化されにくい専門知識と経験を要する工程では注意が必要です。出力はもっともらしく見えても、そのまま鵜呑みにするのは禁物です。フォローアップの対話を重ねて解析を深める必要があります。総じて、研究を丸ごと任せる自動化ツールというよりは、研究者を補助するツールとして使うのが現実的、というのが実際に使ってみての評価です。

はじめに

こんにちは、グループ研究開発本部 AI研究開発室のT.I.です。Anthropicは、2026年6月30日に「Claude Science」を発表しました(Claude Science, an AI workbench for scientists, is now available)。その名の通り「科学研究」の支援を目的としたAIワークベンチです。様々な分析ツールやデータベースと連携し、専用のAIエージェントが分析やレビューを行うことで、研究活動を効率化できるとされています。どのようなものか、要点をまとめると以下の通りです。

  • 文献調査からデータ解析、図表・論文原稿の作成まで、研究の一連の流れをAIが半自動で実行可能
  • 60以上の専門データベース(遺伝子・タンパク質など)を、普通の言葉で質問するだけで横断的に調査可能
  • 解析のコード・実行環境・作成手順の説明・やりとりの全履歴がセットで残る
  • 「グリッド線を消して」など指示すれば、AIが自分でコードを直して図を修正してくれる
  • タンパク質構造予測などの大規模計算を自動で段取りし、研究室の計算機やクラウドに処理させることも可能
  • あくまでも研究者自身の環境で動くため、機密データを外部に丸ごと送らずに済む設計

具体的な動作の例が以下です。出力された図にコメントを付けて対話的に修正させたり、分析コードを出力・保存したりといった作業を行っています。

Claude Science の利用例(図は、Claude Science, an AI workbench for scientists, is now availableより引用)

また、解析の内容によっては手元のラップトップでは性能が足りず、ワークステーションなどの別の計算リソースが必要になる場合があります。そうしたケースでも、Claude Scienceは必要に応じて外部の計算リソースを使って計算を実行できます。以下の図は、scVI(後述する、シングルセル解析でGPUを利用するライブラリ)をラボのクラスターで実行している例です。最適なハイパーパラメータを並列に探索しているようですね。

Claude Science でscVIツールを使い分析している例(図は、Claude Science, an AI workbench for scientists, is now availableより引用)

さらに、分析作業だけでなく、文献調査やまとめレポートの作成も可能です。以下は、生物種を横断してシングルセルデータを統合する手法を調査し、そのアプローチをまとめたレポートを作成している様子です。結果はLaTeX形式で出力し、PDFに変換しています。レポート作成の途中では、レビュアーエージェントが起動し、内容の検証が行われています。

Claude Science で文献レビューを行っている例(図は、Claude Science, an AI workbench for scientists, is now availableより引用)

Claude Science を使ってみる

では、早速Claude Scienceを使ってみましょう。現在はベータ版ですが、macOSまたはLinuxで利用できます。利用にはPro・Max・Team・Enterpriseのいずれかのプランへの加入が必要なので注意してください。インストールは簡単で、公式サイトからダウンロードするだけです(Claude Science)。macOSの場合、Claude Science.appを開くとアプリが起動します。

Claude Science のイメージをダウンロードして開くと簡単にインストール完了します。DNAをイメージしたアイコンということもあり、生命科学への利用がフォーカスされているみたいですね

Claudeのデスクトップアプリとは異なり、Claude Scienceのインターフェースはブラウザ上で動作するWeb UIとして提供され、操作もブラウザ上で行います。最初の起動時にClaudeへのログインが確認され、ログイン後にWeb UIが表示されます。解析環境はcondaで構築され、必要なライブラリやツールは自動でインストールされます。設定ファイルやログ、condaの仮想環境は~/.claude-scienceディレクトリに保存されます。

Claude Scienceの起動後の画面

設定画面を開くと、初期状態から様々なSkillやConnector、Networkが利用可能なことがわかります。生命科学・薬剤・遺伝子などのデータベースとの連携や、論文検索・文献調査のためのSkillなど、研究活動に必要な機能が一通り用意されています。

Claude Science の初期スキル
Claude Science の初期コネクタ
Claude Science の初期ネットワーク

シングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)解析入門:PBMCデータセットを分析してみる

では、早速始めましょう。まずはNew Projectから新しいプロジェクトを作成します。このとき、プロンプトで分析の方向性などの情報をあらかじめ与えることもできます。今回はシングルセル解析入門として、PBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cells、末梢血単核細胞)のシングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)データを解析してみます。

Claude Science で新しいプロジェクトを作成している例

唐突にシングルセルRNA-seq解析と言われても、多くの方は何のことかと思われるでしょう。これは生命科学の研究手法の1つで、細胞の性質を1細胞単位で研究する手法です。ヒトの体は約37兆個以上の細胞からできていますが、その起源はたった1つの受精卵です。細胞分裂を繰り返しながら、様々な種類の細胞へと分化していきます。その過程で細胞ごとに遺伝子の発現の仕方が変わり、その機能や性質が決まっていきます。シングルセルRNA-seq解析は、この個々の細胞の遺伝子発現(RNA)を調べる手法です。

エンジニア向けに例えるならば、DNAはプロジェクトで共有しているソースコード全体(リポジトリ)であり、あらゆる細胞種が実行しうる機能がすべて実装されています。それから呼び出される関数がRNAで、稼働しているプロセスがタンパク質に相当します。どの関数が何回実行されているかをトレースすることで、そのサーバー(細胞)がどのような役割を担っているかを推測できます。

従来のバルクRNA-seq解析では、組織単位でまとめて解析するため、個々の細胞の違いを捉えるには限界がありました。この解像度を単一細胞レベルまで高めたものがシングルセルRNA-seq解析です。具体的には、細胞(数千〜数万個)×発現遺伝子(数千〜数万種類)のマトリクスが作られるので、そのパターンを解析・クラスタリングして類似した細胞グループを特定します。そして細胞種に特有の遺伝子マーカーを参考に細胞種を同定(annotation)し、それぞれの発現遺伝子のパターンを解析することで、細胞の性質や機能を理解できます。

シングルセルRNA解析のイメージ(Claudeに解説案を作成・Nano Banana Proでインフォグラフィック化しましたが、なんかズレている気もしますが、だいたいこんな感じです)

では、Claude Scienceに戻りましょう。実際にタスクをプロンプトで与えてみます。

scanpyを利用してpbmc3k datsetを分析し、cell type annotation レポートを作成してください。

scanpyはPythonでシングルセル解析を行うためのライブラリで、解析のワークフローを簡単に実行できます。pbmc3kも、scanpyで利用できるサンプルデータセットの一つです。すると、分析環境の構築から解析フローまでの一連の作業プランを提示してくれます。全体の流れに問題はないので、そのまま承認して進めます。

Claude Science PBMCデータの解析プラン

分析作業はほぼ自動で進み、追加の指示はほとんど必要なく完了しました。最終的なまとめレポートに加えて、途中の解析結果の図表や、csv形式の結果、h5ad形式のシングルセルデータなどが出力されます。

Claude Science PBMCデータの最終レポート

図表はクリックすると右側のパネルに表示されます。この図は、遺伝子の発現という複雑な高次元データをUMAPという手法で次元圧縮し可視化したものです。細胞種別に色分けされて表示されていますが、類似した色の区別が難しいので、凡例をデータ上に表示させたいと思います。修正したい箇所を選択し、指示をプロンプトで入力します。

Claude Science PBMCデータの凡例コメント
Claude Science PBMCデータのコメント送信

指示した通り、凡例(legend)の位置をクラスターの上に移動できました。こちらの方が直感的にわかりやすいですね。

Claude Science PBMCデータのUMAP注釈の変更結果

具体的な解析のscriptは、Notebookをクリックすると表示・確認ができます。

Claude Science PBMCデータの解析Notebookを表示したところ

シンプルなデータセットの分析なので、最初の環境構築を除けば、ものの数分で分析レポートを作成してくれました。
分析の概要、各ステップでどのようなパラメータで何をしたか、どの細胞種が何個得られたかが、表形式でまとめられています。

# PBMC 3k — Cell Type Annotation Report

**Dataset:** 10x Genomics PBMC 3k (peripheral blood mononuclear cells from a healthy donor)
**Tool:** scanpy 1.12.1 · Leiden clustering · Wilcoxon marker test
**Pipeline:** QC → normalization → HVG → PCA → neighbors → UMAP → Leiden → marker DE → annotation

---

## 1. Summary

Starting from 2,700 cells × 32,738 genes of raw counts, quality filtering retained
**2,638 cells** across **13,714 genes**. Unsupervised Leiden clustering (resolution 0.9)
identified **8 clusters**, each mapped to a canonical PBMC population using established
lineage markers. All eight expected PBMC cell types were recovered.

## 2. Quality control

| Step | Cells | Genes |
|---|---|---|
| Raw | 2,700 | 32,738 |
| After `min_genes=200`, `min_cells=3` | 2,700 | 13,714 |
| After `n_genes_by_counts < 2500` & `pct_counts_mt < 5%` | **2,638** | 13,714 |

62 cells were removed as putative doublets (high gene count) or low-quality/dying
cells (high mitochondrial fraction). See `qc_metrics.png`.

## 3. Preprocessing

- **Normalization:** total-count normalized to 10,000 reads/cell, then `log1p`.
- **Feature selection:** 1,838 highly variable genes (Seurat flavor; `min_mean=0.0125`,
`max_mean=3`, `min_disp=0.5`). Full log-normalized matrix retained in `.raw` for
marker visualization.
- **Scaling:** regressed out total counts and mitochondrial fraction; scaled to unit
variance (clipped at 10).
- **Dimensionality reduction:** PCA (arpack), neighborhood graph (`n_neighbors=10`,
`n_pcs=40`), UMAP.

## 4. Clustering & annotation

Leiden clustering at resolution 0.9 yielded 8 clusters. Cluster identities were assigned
from the top differentially expressed genes (Wilcoxon rank-sum) cross-checked against
canonical PBMC markers.

| Cell type | Cluster | n cells | % | Key markers |
|---|---|---|---|---|
| CD4+ T cells | 1 | 1145 | 43.4 | IL7R, CCR7, LDHB, RPS12 |
| CD14+ Monocytes | 3 | 486 | 18.4 | LYZ, S100A8, S100A9, CD14, FCN1 |
| B cells | 2 | 341 | 12.9 | CD79A, MS4A1, CD74, HLA-DRA |
| CD8+ T cells | 0 | 303 | 11.5 | CCL5, NKG7, GZMA, CD8A |
| NK cells | 4 | 164 | 6.2 | GNLY, NKG7, GZMB, PRF1 |
| FCGR3A+ Monocytes | 5 | 150 | 5.7 | FCGR3A, LST1, MS4A7, AIF1 |
| Dendritic cells | 6 | 36 | 1.4 | FCER1A, CST3, HLA-DRA |
| Megakaryocytes | 7 | 13 | 0.5 | PPBP, PF4, GNG11 |

**Total: 2,638 cells.**

### Notes on discrimination
- **CD4+ vs CD8+ T cells** were separated by cytotoxic program: cluster 1 (CD4+) is
`IL7R+ / CCR7+` with negligible cytotoxic gene expression, while cluster 0 (CD8+) is
`CD8A+ / CCL5+ / GZMA+ / NKG7+`.
- **NK cells** (cluster 4) are distinguished from CD8+ T cells by high `GNLY / GZMB / PRF1`
and absence of `CD3D`.
- **Two monocyte subsets** were resolved: classical `CD14+` (cluster 3) and non-classical
`FCGR3A+` (CD16, cluster 5, also `MS4A7+ / LST1+`).
- **Dendritic cells** (`FCER1A+ / CST3+`) and **Megakaryocytes/platelets** (`PPBP+ / PF4+`)
form small but transcriptionally distinct clusters.

## 5. Figures & tables

| File | Description |
|---|---|
| `qc_metrics.png` | QC distributions and total-counts vs %mito |
| `hvg.png` | Highly variable gene selection |
| `pca_variance.png` | PCA variance-ratio elbow |
| `umap_prelim.png` | UMAP colored by canonical markers |
| `umap_leiden.png` | UMAP colored by Leiden cluster |
| `umap_annotated.png` | **UMAP colored by annotated cell type** |
| `marker_dotplot_annotated.png` | Canonical marker dotplot by cell type |
| `rank_genes.png` | Top ranked marker genes per cluster |
| `marker_genes.csv` | Top-25 markers per cluster (Wilcoxon) |
| `cluster_annotation_summary.csv` | Cluster → cell type mapping |
| `pbmc3k_annotated.h5ad` | Fully processed & annotated AnnData |

## 6. Reproducibility

Key parameters: QC (`min_genes=200`, `min_cells=3`, `n_genes<2500`, `pct_mt<5`),
HVG (Seurat, 1,838 genes), PCA (40 PCs), neighbors (k=10), Leiden (resolution=0.9,
igraph flavor). Marker genes: `sc.tl.rank_genes_groups` with `method='wilcoxon'` on the
log-normalized `.raw` matrix.

主要な結果のイメージは以下の通りです。UMAP上で、T細胞・B細胞・単球(Monocyte)などの細胞種がクラスタリングされています。それぞれの細胞種に特有の遺伝子マーカーを手がかりに、これらの細胞種が同定(annotation)されています。左下のUMAPの図から分かるように、遺伝子発現のパターンが大きく異なる細胞種は、遠く離れたクラスターに分離されるため簡単に区別できます。一方、T細胞系列などは遺伝子発現のパターンが似ており連続的に分布するため、そのクラスタリングには解像度の調整と発現遺伝子の詳細な比較が必要になります。

Claude Science PBMCデータ分析の主要な結果

応用編:最新の細胞老化研究(SenCat)の実データをClaude Scienceで解析してみる

さて、PBMCデータセットはシンプルで典型的なデモデータということもあり、少し物足りないですね。折角ですので、最新の研究データを取り上げて分析してみましょう。今回のお題は「SenCat: Cataloging human cell senescence through multiomic profiling of multiple senescent primary cell types(複数の老化初代培養細胞型のマルチオミックプロファイリングによるヒト細胞老化のカタログ化)」という論文です(SenCat: Cataloging human cell senescence through multiomic profiling of multiple senescent primary cell types) 。これは、2026年6月11日にMolecular Cell誌に掲載された論文で、ヒトの細胞老化(senescence、細胞が分裂を停止したまま死なずに残る状態で、加齢や様々な病態に関与し、その除去は創薬ターゲットとして注目されています)の分子ランドスケープを網羅的にカタログ化する「Senescence Catalog (SenCat)」プロジェクトの成果です。

専門性のレベルが唐突に跳ね上がった感はありますが、まあ、せっかくなので挑戦してみましょう。

まず、このデータを解析するためのプロジェクトを作成し、最初のプロンプトで必要な情報を与えておきます。コンテキストとして、論文の情報とアブストラクト、プロジェクトの目的を入力しています。

Claude Science SenCat解析プロジェクトを作成します

まずは研究内容を把握しておきましょう。オープンアクセスの論文なので、本文を取得して内容を確認できます。実際に、以下のように要約・解説してくれました。

SenCatの論文の内容を簡潔に要約してまとめてください

Claude Science SenCat論文の要約
SenCat論文の内容を正確に要約するため、まず論文本文を取得します。
論文本文を取得して詳細を確認します。

Full textを取得できました。内容を読んで要約します。

論文全文を精読しました。以下にSenCat論文の要点を簡潔にまとめます。

# SenCat 論文の要約

**タイトル:** SenCat: Cataloging human cell senescence through multiomic profiling of multiple senescent primary cell types
**掲載:** *Molecular Cell*(2026年)/Anerillas, Basisty, Gorospe ら(NIA/NIH)

## 背景と目的
細胞老化(senescence)は、細胞タイプ・誘導刺激・微小環境・誘導後の経過時間によって表現型が大きく異なる「不均一性」が最大の障壁であり、普遍的な老化マーカーの定義や、組織内での老化細胞の同定を困難にしてきた。既存のシグネチャー(SenMayo, hUSI, SenSig, SenePy など)は文脈によって性能が変動する。この課題に対し、著者らは自前で厳密に統制した実験系で老化の分子ランドスケープを網羅的にカタログ化する「SenCat」プロジェクトを立ち上げた。

## 手法
- **14種類のヒト初代培養細胞**(肺・皮膚の線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、間葉系幹細胞、平滑筋、骨格筋芽細胞、PBMC、前脂肪細胞、骨芽細胞、アストロサイト、メラノサイトなど)を対象。
- **30以上の老化誘導条件**(化学療法 CTIS、電離放射線 IRIS、酸化ストレス OSIS、がん遺伝子 OIS)で老化を誘導。
- **RNA-seq(トランスクリプトーム)と質量分析(プロテオーム)**を統合。老化状態はBrdU取り込み低下、SA-β-gal活性、従来マーカー(p16/p21/IL6/GDF15/LMNB1)で確認。

## 主な発見
1. **普遍的な単一マーカーは存在しない。** RNA・タンパク質いずれも、全モデルで一貫して有意に変化するマーカーは見つからなかった。マーカーは誘導刺激と細胞タイプに強く依存する。細胞を分類する最も重要な軸は「組織・系譜」ではなく「細胞タイプ」だった。また、トランスクリプトームとプロテオームのマーカーの一致度は低い(重複20%未満)。
2. **経路(パスウェイ)は保存されている。** 個々の分子は異なっても、老化細胞は共通して **p53、NF-κB、EMT(上皮間葉転換)、アポトーシス、低酸素応答、リソソーム機能** などの経路を活性化。これらは大きく「代謝リプログラミング」「組織リモデリング(修復)」「損傷応答」の3群に集約された。→ 老化細胞は「組織修復に関与する損傷応答細胞」として特徴づけられる。
3. **機械学習で頑健なスコアを構築。** ペナルティ付きロジスティック回帰+leave-one-cell-type-out交差検証により、系譜に依存しないRNA/タンパク質シグネチャーと重み付き「老化スコア」を導出。従来マーカーより一貫して老化細胞を判別でき、外部データセット(IMR-90肺線維芽細胞)でも過学習なく機能した。

## In vivo での検証(本プロジェクトで解析する snRNA-seq データを含む)
- **ドキソルビシン処理マウスの肺・腎の snRNA-seq**(0, 1, 2, 4, 6, 12日目の時系列、GSE302792)を新規生成。AUCellでスコアリングし、既存シグネチャー(Fridman, SenePy, SenSig, SenMayo, hUSI)よりも高い判別性能を示し、老化細胞蓄積の動態を全体・細胞タイプ別に可視化。
- **自然老化マウス**(肺・心・腎・肝、3/12/23か月)でも加齢に伴う老化細胞の増加を検出。
- **CellPhoneDB** により、老いた肺で老化線維芽細胞→非老化上皮細胞のリガンド-受容体相互作用(特に線維化促進的な **TGFB2** シグナル)を同定。
- **複数臓器のバルクプロテオームデータ**でも、SenCatプロテオームマーカーが14か月齢以降の加齢依存的な老化スコア上昇を捉え、snRNA-seqの傾向と一致。

## 結論・意義
SenCatは、**単一マーカーではなく「マーカーの組み合わせ」と「保存された生物学的経路」**によって老化を捉える枠組みを提供する。培養細胞での分子理解を深めるだけでなく、種(ヒト・マウス)・臓器・データモダリティ(バルク/シングルセル、トランスクリプトーム/プロテオーム)を横断して老化を検出・スコアリング・解釈できる、実用的な参照リソースである。老化治療(senotherapeutics)は単一の転写物・タンパク質ではなく、これら保存経路を標的にすべきと提唱している。

**限界:** トランスクリプトームとプロテオームの不一致、プロテオームの組織内検証技術の未成熟、snRNA-seqの技術的制約、細胞タイプ特異的な「senotype」シグネチャーの未探索、特定用量・時点データに基づくため全ての老化段階を捉えきれない可能性。

## データ公開先(本プロジェクトで利用可能)
- バルクRNA-seq: GEO **GSE285826**
- ドキソルビシン処理マウス snRNA-seq(肺・腎): GEO **GSE302792** ← 本プロジェクトの解析対象
- バルクプロテオーム: MassIVE **MSV000096215**
- 解析コード: Zenodo / GitHub(maragkakislab/wf-ml-markers-senescence)

---

本プロジェクトでは、このうち **GSE302792(ドキソルビシン処理マウスの肺・腎 snRNA-seq)** を解析対象とすることになります。次のステップとして、このデータのダウンロード・QC・クラスタリング・SenCatシグネチャーによる老化スコアリングなどに進めます。着手してよろしければ、どの臓器(肺/腎)・どの解析から始めるか教えてください。

最初にプロジェクトの目的を与えているので、以下の様に次のステップを提案してくれました。

本プロジェクトでは、このうち GSE302792(ドキソルビシン処理マウスの肺・腎 snRNA-seq) を解析対象とすることになります。次のステップとして、このデータのダウンロード・QC・クラスタリング・SenCatシグネチャーによる老化スコアリングなどに進めます。着手してよろしければ、どの臓器(肺/腎)・どの解析から始めるか教えてください。

では、腎臓のデータを解析することにします。このデータは、抗がん剤ドキソルビシン(細胞にダメージを与えて人工的に細胞老化を誘導する目的で使われます)を投与したマウスから、経時的に採取されたものです。ちなみに、このデータはsingle-cellではなく、single-nucleus RNA-seq(snRNA-seq)データです。これは細胞の核を単離して解析する手法で、単細胞に分離が難しい細胞種の解析に有効です。データの形式と解析手順はシングルセルRNA-seqと同じです。データはGEOで公開されているので(GEO: GSE302792)、そこからダウンロードすればよいのですが、少々時間がかかります。今回は、なぜか手元にダウンロード済みのデータがあったので、そちらを利用します。データを添付し、指示を与えました。Claude Scienceは、データベースを参照し、メタデータを探索しながら、解析計画を立ててくれます。

GSE302792_RAWを添付したので、このkidney datasetの解析計画を立てて解析してください

Claude Science SenCat マウス腎臓snRNA-seqデータの解析計画

立案してくれた計画の手順は次のような内容です。論文の内容を踏まえ、解析の流れを整理してくれました。

  1. データ展開とサンプル読み込み
  2. サンプルごとの QC(depth-aware)
  3. 正規化・HVG・次元削減・バッチ統合
  4. 細胞型注釈
  5. SenCat 老化シグネチャーの取得(老化シグネチャー=老化細胞を見分けるための目印となる遺伝子群のこと)
  6. 老化スコアリング(AUCell / AddModuleScore)
  7. 老化細胞の時系列動態
  8. 経路解析(老化 vs 非老化)
  9. 結果レポートとアーティファクト保存

では、解析を開始してもらいます。序盤のQC(Quality Control)では、scrubletによるダブレット除去でツールのエラーが多発し、非常に時間がかかってしまいました(ダブレットに関しては、後ほど解説します)。一方で、時間のかかるタスクはバックグラウンドに回し、その間に順序を問わない作業(ステップ5「老化シグネチャーの取得」、SenCatのGitHubリポジトリからの遺伝子リスト取得)を進めるなど、効率的に作業してくれました。今回は完全な自動実行ではなく、途中で確認を求められる場面もありました。およそ1時間ほどで解析が完了し、最終的なレポートが出力されました。

Claude Science SenCat マウス腎臓snRNA-seq解析レポート

作成された主要な図は以下の通りです。UMAP上に細胞種ごとのクラスタリングが示され、薬剤投与に伴う老化細胞の割合の時系列変化や、細胞種ごとの構成比などが可視化されています。

Claude Science SenCat マウス腎臓snRNA-seq解析図

続いて、レポートをPowerPoint形式にまとめてもらいましょう。PowerPointを作成するSKILL.mdが呼び出され、変換作業が進みます。

レポートをPowerPoint資料にまとめてください

Claude Science SenCat マウス腎臓snRNA-seq PowerPoint資料

PowerPoint形式のレポートが作成されました。

Claude Science SenCat マウス腎臓snRNA-seq PowerPointレポート

なお、Claude Scienceの利用コストは、プロジェクトごと・ツールごとに集計・確認できます。以下のように設定画面から確認可能です。今回はopus-4.8をメインで使いましたが、上限に達する前に無事終わりました。作業の難易度に応じてモデルを使い分けた方が良いかもしれません。

Claude Science利用状況の確認

Claude Scienceで利用可能なモデルは以下の通りです。一般的なタスクはSonnet 5に任せた方が良さそうですね。なお、Fable 5は選択肢には含まれていません。ちなみに、ClaudeのChatなどでもFable 5に生命科学の話題を質問すると、即座にセーフガードが発動してOpus 4.8に切り替わってしまいます。

Claude Science利用可能モデル

Claude Scienceはどこまで信頼できるか

このように、Claude Scienceを使えば、あっという間にシングルセル解析を実行し、レポートまで作成できます。初期的な探索やプロトタイプとしては十分かもしれませんが、残念ながら、現状の分析品質は、人間の研究者が行う解析に比べると精度や品質の面で見劣りします。分析レポートも一見するともっともらしいのですが、内容は薄く、盛り込まれた情報の不足は否めません。セミナーで炎上したいならともかく、研究の議論に耐えるには、少なくともこの数倍以上の図表が必要でしょう。

更に分析の解像度も問題があります。Claude Scienceは、腎臓の細胞を部位ごとの10種類のグループに自動で分類していました。しかし、実際の研究では、より細かい細胞種の分類が必要になります。以下は、Claude Scienceによる腎臓細胞のクラスタリングと、最近の研究(Lake et al., 2025)によるクラスタリングを比較したものです。Claude Scienceが腎臓の細胞を10種類に分類したのに対し、Lake et al.では、各部位をさらに細かい100種類以上の細胞種へと分類しています(中央の円の内側が部位レベルの分類、その外周が部位ごとの細胞種レベルの分類を示しています)。

Claude Science によるKidney cell clustering と Lake, B. B., et al. (2025). Cellular and Spatial Drivers of Unresolved Injury and Functional Decline in the Human Kidney. bioRxiv. https://doi.org/10.1101/2025.09.26.678707

さらに、細胞の品質管理(QC)の精度も不完全です。シングルセル解析には、ダブレットと呼ばれる、2個以上の細胞を誤って1つと数えてしまうノイズがあります。また、細胞の破片や死細胞などのノイズも混入します。これらのノイズを除去することは、解析の精度を高めるうえで非常に重要です。

シングルセル解析における品質管理(QC)の概略

その観点で先ほどのSenCatの解析結果を改めて確認すると、やはりダブレットや品質の悪い細胞がかなり混入している様子です。以下の図では、怪しい細胞集団の一部を赤丸で囲っています。例えば、2つの細胞集団を繋ぐ橋のような形状は、ダブレットの可能性が高い部分です。また、クラスターの周辺に点々と散らばる細胞は、死細胞や破片の可能性があります。Claude Scienceは、あらかじめ想定した細胞種のマーカーを機械的に当てはめて分類しているため、こういった怪しいクラスターもいずれかの細胞種に振り分けてしまっています。高品質な解析では、これらのノイズを丁寧に除去したうえで、UMAP上の分布なども参考にしながら慎重に細胞種を判定する必要があります。

Claude Science によるSenCatクラスタリング結果。品質に問題がありそうな細胞集団の一部を例として赤丸で囲っている。

Claude Scienceが立案した解析計画では、ダブレットの除去にscrubletというツールを使うことになっていましたが、実際にはエラーが多発し、うまく動作しませんでした。そのためscrubletを使わず、深度に応じたMAD(中央絶対偏差)フィルタでダブレットや品質の悪い細胞を除去しています。しかし、それだけでは不十分であることが、この結果から明らかです。分析の途中プロセスを確認すると、Claude Scienceは以下のような判断を下していました。

「18個のサンプルを1つずつ検査してるんだけど、15個は終わったよ。でもKidney_2と5と12の3つは、検査の道具(scrublet)が新しい部品とかみ合わなくて途中で止まっちゃった。この道具は"細胞が2個くっついてないか"を調べるものなんだけど、ちゃんと動いた15個ではどれも"くっつきゼロ"だったんだ。だからこの3つも、この道具はお休みさせて、もう一回だけ検査し直すね。他のやり方でちゃんとゴミは取りのぞいてあるから大丈夫だよ。」(意訳)

scrubletが動作したケースでの検出がゼロだった点を根拠に、「使わなくても大丈夫」と自ら正当化しています。しかし、現実的にはダブレットが完全にゼロということは考えにくく、scrubletがゼロと判定した場合も含めて要確認です。加えて、scrubletだけではダブレットの判定は不十分で、実際に遺伝子発現を確認し、本来は共発現しないはずの遺伝子の組み合わせを持つ細胞を除去するなど、様々な知見が求められます。

もちろん、追加の指示を与えることで、Claude Scienceの解析を改善することは可能です。例えば、Proximal tubule(近位尿細管)を別途抽出して再クラスタリングするようプロンプトを与えた結果が、以下の図です。各セグメントごとのサブタイプに加え、今度は低品質・アンビエントRNA(死細胞由来の背景ノイズ)の細胞(茶色)が混ざっていることにも気づいてくれました。

Proximal tubule(近位尿細管)のサブクラスタリング結果。今度は低品質の細胞(茶色)が混ざっていることに気がついてくれました。

こうやって対話を繰り返しながら、低い品質の細胞を除去し、再クラスタリングや着目すべき遺伝子の指示などを繰り返すことで、解析を改善していくことができます。感覚的には指示に素直に従ってくれる大学院生程度(?)の印象です。こちらから指示をすれば分析を進めてくれますが、専門知識と経験不足から、そのまま完全に任せるにはまだ不安が残る、というのが率直な印象です。

Claude Science SenCat の分析の様子。対話を繰り返しながら解析を進めればさらに内容の深掘りは可能です。

まとめ

今回のブログでは、Anthropic が発表した Claude Science を紹介しました。Claude Science は、様々なSkillやデータベースと連携でき、研究活動の効率化を支援する科学研究用のAIワークベンチです。簡単な解析であれば一通り自動でこなしてくれる一方、QCや細胞種の同定といった専門知識と経験を要する工程では、まだ人間の研究者には及ばない、というのが今回使ってみての率直な印象でした。対話を繰り返すことで分析のブラッシュアップは可能ですが、いちいち自然言語で指示するなら、自分でコードを書いた方が早くて確実、というのが正直なところです。分析作業では、自分自身でデータを触って初めて気が付くこともあるので、その機会が失われることも懸念点です。

もっとも、環境構築から解析・図表・レポート作成までを一気に自動化し、専門外の人でもシングルセル解析の第一歩を踏み出せるようにしてくれる点は、これまでのツールにはなかったClaude Scienceの確かな強みです。実験を主とする生命科学研究者に向けてシングルセル解析を代わりに実施してくれる受託サービスというものがありますが、Claude Scienceは、研究者自身が自分の手で解析を進めることができる点で、受託サービスとは一線を画しています。初学者でも簡単に使えるという利点は大きい一方で、データを深く理解するには、やはり自分自身で考え、学び、慎重に判断を下すプロセスが欠かせません。Claude Science は、あくまで研究者を補助するツールとして活用するのが望ましいでしょう。一見もっともらしい解析結果を簡単に出力してくれますが、それをそのまま鵜呑みにすると思わぬ落とし穴にハマりかねません。昨今では、こうした自動化ツールを使った解析結果をそのまま掲載している論文も見かけますし(いやマジな話あるんですよ)、注意したいところです。

最後に

グループ研究開発本部 AI研究開発室では、データサイエンティスト/機械学習エンジニアを募集しています。ビッグデータの解析業務などAI研究開発室にご興味を持って頂ける方がいらっしゃいましたら、ぜひ募集職種一覧からご応募をお願いします。皆さんのご応募をお待ちしています。

参考資料

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