2026.06.26
AIエージェントにシステマティックCTAを徹底調査させてみた
※本記事の内容は調査・検証を目的としたものであり、特定の金融商品の売買や特定の運用戦略への投資を推奨するものではありません。記載の数値・見解は執筆時点で確認できた公開情報に基づきます。
はじめに
グループ研究開発本部・AI研究開発室のS.Sです。
これまでの記事では、AIエージェントにFXの取引戦略を考えてもらったり、商品先物のCOT(建玉明細)レポートをもとに戦略を設計させてみたりと、「個別の取引戦略をAIに作らせる」ことを続けてきました。今回はもう一段だけメタな視点に立ってみます。
テーマは システマティックCTA(Commodity Trading Advisor) ——いわゆる「トレンドフォロー」を中心に、株・債券・為替・コモディティの先物を横断して機械的に売買する運用スタイルです。AHL(Man)、Winton、Aspect、Transtrend といった名前を聞いたことがある方もいるかもしれません。
トレンドフォローと聞くと「相場の流れに乗るだけのシンプルな戦略」に思えますが、いざ 自分たちがトレンドに乗って取引するとしたら、どこにいちばん「旨み」(収益機会)があるのでしょうか? いきなり戦略を組んでバックテストを回す前に、今回は AIのディープリサーチ・エージェントに、トレンドフォローが「いつ・どこで稼いできたのか」を徹底的に調べさせて、旨みのありかを地図にしてみました。
このディープリサーチ・エージェントの良いところは、集めてきた情報をうのみにせず、複数のソースで裏取りできた主張だけを残して「地図」を描いてくれることです。本記事では、その調査からわかった トレンドフォローの「実績」「正体」、そして トレンドに乗るうえで旨みがありそうな「狙いどころ」 を整理していきます。
システマティックCTA/SGトレンド指数とは
最初に、調査対象の「ものさし」を押さえておきます。
トレンドフォロー(CTA)のパフォーマンスを語るときの業界標準は、Societe Generale(SG)が算出する2つの指数です。
- SG CTA Index(NEIXCTA) … 投資可能な最大手 約20社で構成
- SG Trend Index(NEIXCTAT) … そのうちトレンドフォロー上位10社で構成
どちらも 等加重・年次再構成・2000年1月設定 という、運用実績ベースで透明性の高い指数です。運用実績そのものをベースにしているため、バックテスト特有の「数字が良く見えすぎる」問題が起きにくく、旨みを測るものさしとして素直に信頼できます。
そして調査でいちばん腹落ちしたのが、**トレンドフォローのリターンの「正体」**です。
株価指数・債券・為替・コモディティ先物への分散トレンドフォローだけで、指数リターンの 85%超 を説明できる。
つまり「CTA=分散トレンドフォロー」とほぼ言い切ってよい、ということです(出典:CFM “A Good Time for Trend Following”、Man “Optimal Market Mix”)。さらにこの戦略は 株式・債券とは低〜負の相関 を持ち、株がつらい局面でも機能しやすい性質(クライシス・コンベクシティ)を持つ——ここがトレンドに乗る旨みのひとつです。
調査方法:AIディープリサーチ・エージェント
今回の主役は、Claude を使ったディープリサーチ・ハーネス(AIエージェントのワークフロー)です。エンジニア視点でおもしろいのはこの「調べ方」なので、少し詳しく書きます。
処理の流れは次のとおりです。
- 5角度分解 … 「ベンチマーク定義」「実績」「好調/不調の要因」「旨みの狙いどころ」「リスク」など、問いを複数の切り口に分解
- 並列Web検索 → 20ソース取得 … 一次ソース(運用会社のホワイトペーパー、指数の公式定義、学術論文)を優先して収集
- 84の主張を抽出 … ソースから「事実主張」を粒度を揃えて切り出す
- 重要な主張を「敵対的検証」にかける … ここが肝。各主張に対して、別の検証役エージェントがファクトチェックを行い、複数のソースで支持されたものだけを残す
- 裏取りできた知見を12にまとめて統合
ポイントは ④の「敵対的検証(adversarial verification)」 です。LLMに普通に調べさせると、もっともらしい数字を拾ってきて、そのまま「事実」として並べてしまいがちです。そこで別の検証役を立てて各主張をファクトチェックし、複数のソースで裏取りできた主張だけを採用する——という設計にしています。「調べる」と「裏を取る」を分けるイメージです。
こうして確認できた知見を、ここから順に紹介していきます。
わかったこと①:トレンドフォローの「実績」と「正体」
まず、確認できた長期・直近のパフォーマンスです。
| 期間 | 数値 | 主な出典 |
|---|---|---|
| 2008年(金融危機) | SG Trend +20.9% | Man / Cambridge Associates |
| 2022年(記録的好成績) | SG Trend +27.4% | Hedgeweek / Man |
| 2024年 | SG CTA +2.4% / SG Trend ほぼフラット | CFM / SG 2025レポート |
| 2025年(→4月末) | SG Trend 4月 −4.9%、YTD −9.3%、直近12ヶ月 −18.6% | Man “Is This Time Different?” / SG |
| 対株式・債券 | 低〜負相関(クライシス・コンベクシティ) | Man / AQR |
数字の振れ幅が大きいことに驚くかもしれません。2008年と2022年に大きく勝ち、直近の2025年4月末時点では直近12ヶ月で −18.6%=設定来ワースト(前回ワーストは2019年1月の −16.0%)を記録しています。トレンドフォローは年ごとの当たり外れが大きく、波のあるリターン源だ——というのが、まず押さえておきたい実態です。
なぜ2022年は記録的に強かったのか
2022年の好成績を資産別に分解すると、いわゆる 「リフレ取引」 にきれいに収まります。
- ① 金利・債券先物(FI)のショートが最大寄与 … 利上げ局面で債券が一本調子に下落
- ② コモディティ・ロング … エネルギー・穀物(原油・ガス・小麦)のロシア-ウクライナ起因の急騰
- ③ ドル・ロング(FX)
- 株式指数はトレンドフォローにとってむしろ小幅マイナス
インフレ・利上げ・コモ高・ドル高という 「持続的で一方向のトレンド」が複数同時に立った ことが、分散トレンドフォローにとって理想的な環境でした。
なぜ2024〜2025年は伸び悩んだのか
直近の伸び悩みは、金融政策への期待が二転三転し、債券や通貨で明確なトレンドが育ちにくかった(=往復ビンタの「ホイップソー」相場)ことが大きいようです。2022年に効いた「持続的で一方向のトレンド」が出にくい地合いだった、という整理です。
裏を返せば、調査からはっきり見えてきたのは、トレンドフォローの旨みの源泉は「持続的で一方向のトレンド」そのものにある ということでした。方向感のある相場では大きく稼ぎ、方向感のないレンジ・往復相場では苦しむ。どの資産でトレンドが立つかは年によって変わりますが(2022年は債券・コモディティ・ドル)、”持続的なトレンドが存在するかどうか” が成績を大きく左右します。これが旨みを考える出発点になります。
わかったこと②:トレンドに乗るなら、どこに「旨み」があるか
では、実際にトレンドに乗って取引するとして、どこに旨みがありそうか。既存のベンチマーク(SG Trend等)が取り切れていない部分も含め、調査からは狙いどころが3つ見えてきました。
| 狙いどころ | 旨み(エッジ)の根拠 | 取りに行く難しさ |
|---|---|---|
| 短期/高速トレンド | SG Trend自体が2007年以降「遅い」モデルに偏重。急反転局面で短期が明確に優位(2025/4 YTD:SG Short-Term −0.9% vs SG Trend −9.3%、短期最良は +15%)。今のホイップソー相場で効きやすい | 中(高回転=コスト・キャパ制約) |
| オルタナ/エソテリック市場 | 伝統4資産の外には独立リターン源が多い(>30因子)。Max-Sharpeポートフォリオは伝統市場を減らしオルタナを増やす=分散で旨みを底上げ | 高(データ・執行・キャパ) |
| クロスアセット・キャリー | トレンドと低相関の補完オーバーレイ。レンジ相場でも収益源になりうる。資産別Sharpe 0.62(コモ)〜0.93(株)。学術的裏づけあり(KMPV “Carry”, JFE 2018) | 中 |
ここで、旨みを取りに行くうえで 明示しておきたいトレードオフ があります。
Max-Sharpe(最大シャープ)はオルタナ寄り、Max-Crisis-Sharpe(危機時に強い構成)は伝統市場寄り。
株式ストレス時の負相関(=株が崩れるときに効く性質)は、主に 伝統的な大型市場のトレンド から来ています。なので、「とにかく高いリスク調整後リターンを取りに行く」ならオルタナ寄り、「株が崩れる局面でのヘッジ性も効かせたい」なら伝統市場寄り——狙う旨みの種類によって配分が変わる、というのが調査からの示唆でした。
まとめ
AIエージェントにトレンドフォローを徹底調査させて、見えてきた「旨みのありか」を整理します。
- 正体は「分散トレンドフォロー」。指数リターンの85%超を説明でき、ベンチマーク(SG指数)は実運用ネット・等加重で透明性が高い。
- 旨みの源泉は「持続的で一方向のトレンド」そのもの。だから2008年(+20.9%)・2022年(+27.4%)のように複数資産でトレンドが立つと大きく稼ぎ、2025年4月末(直近12ヶ月 −18.6%)のような方向感のないホイップソー相場では苦しむ。
- 大幅ドローダウンは前提として織り込む。Sharpe0.5・ボラ10%・株式相関ゼロを仮定すると、25年のうちに20%超DDを経験する確率は約8割と見積もられる。旨みを取り切るには、この振れ幅に耐えられる撤退閾値の設計が前提になる。
- トレンドに乗って旨みを取りに行く現実的な構成は「短期トレンド核+キャリー・オーバーレイ+限定的なオルタナ市場」。短期核で今のホイップソー耐性を確保し、キャリーでレンジ相場も拾い、オルタナで分散を底上げする。ただしオルタナ傾斜はクライシス耐性とのトレードオフがあるため、狙う旨みに合わせて配分を決める。
そして技術的な学びとしては——AIに調べさせるだけでなく、別のAIに裏取り(ファクトチェック)をさせ、複数ソースで支持された知見だけを採用することで、調査結果の信頼性がぐっと上がる、という点が大きかったです。金融のように”もっともらしい数字”が溢れる領域ほど、この一手間が効いてきます。
正直な留意点
最後に、調査の限界も率直に書いておきます。
- 検証できた最新ハードデータは 2025年4月末 まで。本記事執筆時点(2026年6月)までの相場や「今後」については、あくまでレジーム特性からの外挿であり予測ではありません。
- 個別ファンド(AHL/Winton/Aspect/Transtrend)やBTOP50の具体的な数値は、今回は十分に裏取りできなかったため掲載を見送りました。本記事はSG指数・集計マネージャ水準の話に留めています。
- そして この旨みを実際に取りに行くときの真のリスクは、戦略ロジックよりも先物の執行コスト・ロール・キャパシティにあります。バックテストで +X% が出ても、ここを保守的にモデルしなければ容易に過大評価になります。実際、運用各社(Man・Winton 等)も運用キャパシティの制約を繰り返し指摘しており、「紙の上のリターン」と「実際に取れるリターン」のギャップを保守的に見ておくことが、旨みを正しく評価する鍵になりそうです。
最後に
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